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MMORPG提供会社には政治力が求められる

#この記事を読むにあたってMMORPGの知識は要求されませんが、オフラインゲームの出来ればRPGがどういうものかは知っていることが推奨されます。
自分が今やっているMMORPG*1ではいわゆる職業制を採用している。ラグナロクオンラインなんかでお馴染みのアレだ。ネトゲ*2をやらない人にはドラクエ3の職業っぽいものと言った方が通りがいいか。一度キャラクターを作ると基本的に転職出来ないという点でFF5よりもDQ3の方が近い。
#以下自分が今やってるMMORPGにをベースに書くが、恐らく全てのMMOに当てはまるだろう。例えば職業制を採っていないスキル制MMORPG*3なんかの場合でも**型というキャラクターに固定されたスタイルがあるので、職業を適切に読み替えれば同じような議論が出来る。
で、この職業制由来の不満が一部にあるようである。一部と言っても潜在的にはかなりの数がいるようで、したらばの職業間の強さのバランスを問題視しているスレッドはこの掲示板中最速の部類である。具体的に言うとアップデート情報を交換するスレッドと晒しスレの次に流れが速い。ちなみに内容はひどいので物好き以外見る必要はない。とういか自分も現行スレッドは見ていない。昔1〜2スレッドだけ読んだがあまりにどうしようもない上に話題がループしているので読むのをやめた。なんで内容がひどいのかという理由は後述。ちなみに話題がループする理由は恐らく時定数*4が長いからだと思われる。この手のスレッドが速いというのは一面開発運営*5のバランス調整が下手だからである、という風に見られることが多い。実際職業間で対立ばかりしているスレッドの中でもそのことだけは共通の認識らしい。お前ら仲いいな。だが、これはネトゲの開発運営のバランス調整能力とやらの不足が原因なのだろうか*6。自分はそうは思わない。結論から書くと、全てのユーザが、全てと言わずとも大半のユーザが満足する状態を作り出すことをバランス調整能力と言うならば、そんなものは存在しない。ことは特定の価値観に基づく最適化という技術的な課題ではなく、異なる価値観の中で妥協点を探るという政治的なプロセスだからだ。
まず、「望ましい職業間のバランス」の定義からはじめよう。望ましいバランスが抽象的にでも分かれば、あとはそれを開発の力量次第でパラメータ化出来る。じゃあくだんのスレッドから望ましいバランスとして挙げられているものを挙げてみよう。何々、ヒーラーが攻撃手段を持っているのはおかしい、ヒーラーに攻撃手段があってソロプレイが出来るからパーティに来ない、これは困るとな。確かにヒーラーが攻撃手段を持っているのは事実だな。次、ヒーラーの攻撃手段は現状では足りないくらいだ、火力が足りないからソロでレベルが上がらない、パーティをいつでも組めるわけではないからこれは困る、レベルが上がらないとそもそもパーティが組めない、と。ふーん。・・・って、この時点で既に両者の対立の間に日本海海溝くらい開いてしまっている。もうお察しの通り職業によって「望ましい職業間のバランス」は異なるのだ。単純化してアタッカーとヒーラーという図式を書けば、アタッカーはパーティにヒーラーを誘いやすくするべきだと主張するし、ヒーラーはソロの能力を上げるべきだと言う。両者を満足させる最適解は存在しない。ここで開発運営に可能なのはどちらか片方の言うことを聞いて片方に我慢してもらうか、間を取って何とか誤魔化すかのどちらかだ。そして自分が今プレイしているネトゲでは12個も職業があるのだ。12は恐らく多い部類だが、5〜6以上あるのは普通だろう。アタッカーとヒーラーの2個でもどうしようもないのに12である。組み合わせを考えるだで頭痛がするだろう。もっと直接的にどうしようもない例を挙げよう。一方はアタッカーはソロが得意であるべきだと言い、もう一方はアタッカーはパーティで最大限火力を出せるようにするべきだと言う場合なんかどうだろう。どちらの同じスレッド内で、ただしそれぞれ別の人による意見だ。パーティ派はソロが相対的に強ければパーティ組む意味がないとネガるし、パーティを組む方が圧倒的に美味ければソロ派はパーティ必須ゲー乙とdisる。同じ職業内でも思想の違いで対立が生まれ得る。ついでに書けばこの例でわかるようにネトゲだからと言ってパーティ組めばいいんだよというアプローチは駄目なことが分かるだろう(営業的な意味で)。MMORPGをゲーム付チャットとして、あるいは人間と取引出来るからプレイしているやっているから戦闘はソロで出来た方がいいという向きは多いので、開発運営としてはこれを無視するわけにはいかないだろう。
ここまで戦闘に関する話だったが、MMORPGでの一般的な価値観-育成と、お金儲け-のもう一方、お金儲けの方に関しても似たような議論が出来る。こちらの場合は話は簡単で、金という尺度があるためあの職業は儲かる、儲からないという一元的な評価が可能だ。そして一元的なだけにどうしようもない。儲けられる金額しか尺度がないので優遇だ不遇だがはっきりしすぎる。究極の解決策はあらゆる職業でLv1からLv100まで同じ方法を使えば最高効率の時給を得られるようにすることだが、みんなで同じものを手に入れているのにそれがいつまでも最高効率のお金稼ぎの方法になりうるかというと極めて怪しい。ていうか無理だろ。モノの代わりにゴールドを渡してもゴールドが値下りするだけで同じである。Lv1とLv100で差をつければ前述の戦闘が絡むことになるので不満がどこかからは出る。またソロ派とパーティ派の対立も出てくるだろう。もうちょっと書けば、ネトゲ会社は課金アイテムを売ることで利益を出していることが大半なので、ゲーム内で入手出来るものがマネーを含めて全員均等だと課金アイテムの売り上げが悪くなるという事情もある*7。利益至上主義の資本主義の悪弊だなどと言ってはいけない。タイトルが赤字ならサービスが停止してユーザも困るのだ。
じゃあ一人が複数のキャラクターを育てられるようにすればいいんじゃないの?という話は当然出てくるだろう。だがこれはネトゲの現状では無理な注文だ。まずキャラクタースロットの追加が有料というゲームはかなり多い。同じ料金で複数作れる場合もあるが、無制限に追加出来るネトゲというのは自分が知る限り存在しない。ユーザによってネトゲに払えるお金のキャパシティーというのは当然異なるわけで、それがみんながみんな全ての職業のキャラクターを育てれる訳ではないということの制約理由その1になる。ちなみに制約理由その2はみんながみんな複数のキャラクターを育てられるほどの廃人ではないということである。1キャラを育てる手間と2キャラを育てる手間を誤差にするというアプローチはネトゲから育成の要素を取り払うことになるので、これを取り払うことは多分天才の仕事だ。
初歩の経済学っぽい理屈をこねると職業移動は自由!レベルも持ち越せます!とやれば育成の要素は残しつつ各々が満足する水準まで職業間の移動が起こるはずだが、実際にはそうはならないだろう。元の職業に残って不満を垂れ流す公算の方が大きい。リアルも場合と同じく職業はアイデンティティなのだ。
延々書いてきたが、改めてまとめると「最適」はありえないということだ。バランスの討議をしているスレッドの連中はそれに気づいていない。だから不毛なのである。
では最適化の出来ない開発運営に残されたことは政治による調整な訳だが、これはどうやれば正解という方法がない*8。開発運営が一方的に全てを決めてそれに賛同するユーザだけ残れという独裁的なモデルは営業的にはリスキー過ぎる。パイが小さくなりすぎる場合が大半だろう。ユーザから意見を吸い上げる民主的なモデルても、特定の価値観を採用すればそれに沿わないユーザは逃げるだけなので同じである。玉虫色回答をすると下手すると全員逃げる。国ならなかなか抜け出せないのでそれでもある程度国民を手元に残すことが出来るが、ネトゲ流動性は国の間の流動性なんかとは比べ物にならないほど高い。ついでに書けば人間はやめられないがネトゲはやめられる*9。これを上手くまとめ(上手くとはなんぞやというところから「上手く」まとめないといけない)られるのが、本当の意味で調整が上手い開発運営だということだろう。どうすれば「上手く」行くのかというのは自分にはよく分からない(政治は苦手だ)。とにかくネトゲの開発運営にはある種の政治を行う能力が求められている、ということだけを書いて一旦の〆とさせていただく。

以下、関連したやや雑多な話題

ところで、なぜバランスを議論しているスレッドの内容がひどいのか

ひどいと言っても主観的な問題なのだが、性質上相手が強すぎるという嫉妬垂れ流し状態なのに加えて自分が弱すぎるというネガティブキャンペーン(?)が行われているからだ。嫉妬だけでも見るに耐えないというのにネガネガされてはたまったものではない。ただ相手の職業を強く見せ自分の職業を弱く見せるのは果たして合理的だろうか。自分の職を弱く見せれば新規に入ってくる人は一般論としては減るはずである。人口が減れば自分の職が強くされる可能性も減るだろう。現状ネガとネガがぶつかり合って全体としてはバランスしているようだが。ではなぜネガるのかというと、「この不公正な状態を認めてくれれば開発運営は自分の職を強くしてくれるはずだ」という暗黙の期待がある。これが「ネガのないネトゲなどない」と言われる原因の一つだろう。
これを変えたければ開発運営が「強い職はさらに強くします!」とか「人口の多い職業を有利にします!」と公言し、実行すればなんとかなる・・・はずなのだが流石にこれでは客が寄り付かないだろう。

開発運営の実験の失敗

脚注でユーザにバランス調整を丸投げします!という姿勢を見せたら叩かれたという話をしたが、それについて。そもそも開発運営はバランス調整を丸投げするなどとは一言も言っていない。あくまでアナウンスは「特定期間中だけちょー簡単にLv上げやすく*10するから、バランス調整の参考にさせてね」というものだった。このイベントは実際に行われたのだが、一部のユーザから猛烈な批判を浴びた。曰く、その期間中のプレイ料金返せ、と。自分は長らくその感覚が理解出来なかったが、最近になってようやく彼らの本音が分かった(賛同はしないが)。「ユーザはテスターじゃねーんだ、そういうことは開発運営の内部でやってから実装しろ」だそうである。なるほどね。だがバランス調整をゲーム内の一大事と見る立場とこれは矛盾するはずだ*11。以下もうちょっと詳しく書く。
そもそも論として、大規模対人*12については開発運営内部でテストのしようがない。当たり前である、大規模対人と言うからには大人数を使わなければならない。レベリングの難易度もやはり開発運営内部でのテストで分かれというのは非現実的だ。ネトゲカンストさせるまでの時間は並大抵ではない。100時間や200時間では達成出来るものではないのである。大体たとえ100時間でカンストさせることが出来たとしても時給1000円の人間を雇えば10万円かかる。1000時間なら100万円かかる上に日数もかかり、カンストする頃には次の要素が実装されている*13。レベルキャップの開放とかな。大体MMORPGは客をつなぎ止める保険として何もすることはなくなってもレベリングだけは残っているという状態を作ることが多い。かのラグナロクオンラインでは長年に渡って保険の期間更新を行った結果最近3次職を実装するに至ったとかなんとか。そんな訳でまずこの辺は物理的に開発運営でテストできるものではないということは分かって欲しい。
で、大規模対人の場合を考えると、まず開発運営のゲームのことをよく分かっているスタッフが数百人もいるわけがない。いたとしても、その間根こそぎ動員してラインを止めるなど論外だろう。ネトゲは暇人のやるものだが、開発運営は暇人ではないのだ。では世の中のヒマな労働力-バイトでも雇えばいいかというと、これも無理だ。まずバイトを数百人も雇うコストに開発運営が耐えられるはずもないし、たとえ雇えたとしてもバランス調整などというゲームをそれなりにやらないと分からないことにゲームをよく知らないバイトが使えるはずもない。こうして考えるとゲームのことをよく知っていて、人数はいっぱいいて、時間もそれなり以上にかけてくれている人種はひとつしかない。一般のユーザだ。というわけでネトゲでは必然的にユーザはテスターとしての性格を帯びる。開発運営でテスト出来ない要素を実装されてから初めてユーザがプレイするのだから。ましてや職業別のパーティ需要とかは実測してナンボであるので開発運営では原理的にも分からない。これもやはりユーザはテスターをやっていると言える。
ここでようやく最初に書いたイベントの話に戻る。ユーザしか実質的なテスターがいないという状況を仮定すると(繰り返すが、世のネトゲは正式サービス中でもユーザはテスターだ。実際マトモな運営ならユーザの「要望窓口」が専用フォームで設けてある。この仮定は真実であると信ずるに足る根拠がある)、バランス調整にユーザの意見を反映させるのに正規のプレイを経させるのと、上述のイベントを経させるのとどちらが時定数が短いか。答えは確定的に明らかだろう。みんながみんなカンストしていない状態の方が普段の状態だから、そっちをテストすればいいんじゃなのという向きはネトゲプレイヤーの心理とは異なる。いつでも廃人はすぐカンストかそれに近い状態に行くし、比較してライトなユーザは時間がかかる(そして真人間は我に返ってネトゲをやめる)。時間はかかるが廃人の様子を見ることは出来るので、自分の将来の姿について想像を巡らせてバランスを考えるのだ*14。話がややそれたが、時定数は短ければ短いほどユーザからのフィードバックが迅速に反映されることになるわけだ。そして正規のサービスでの時定数が長すぎるのも明らかだ。カンストした人間の割合は時間が経たなければ増えない一方、この数が増えなければ正確なフィードバックは出来ない。平均的なプレイヤーがカンストにかかる日数(プレイ時間に非ず)は滅茶苦茶長いのだ。平気的なプレイヤーがカンストするまで待って、それをフィードバックして、もう一度平均的なプレイヤーがカンストするまで待って・・・とやっていたら時定数は少なく見積もって年単位だろう。下手をすると10年とか100年のオーダーになるかもしれない。ならば、一時的にみんなをカンストさせて時定数を短くするというのはバランスを「望ましい状態」*15により早く導けるという意味で望ましいのである。
長々と書いたが、まあ「カンストはごほうびなのにそれをタダで配っちゃヤダヤダ!」というのが本音だがそう言うのは恥ずかしいから最初に書いたような理屈を並べたのかもしれないが。そうだとしたらそんな廃思考は知らんとしか言い様がないが。

*1:ECOである。タイトルの具体名は分かる人だけ分かればOK

*2:今回話をするのははMMORPGの話でいわゆるネットワークゲーム全般の話ではないが、以下筆が滑ってネトゲと書いていたらMMORPGのことを指していると思ってください

*3:念頭にあるのはマビ

*4:時定数という概念を知らない方は、このファクターが短ければ短いほど安定状態に移行するのにかかる時間が短いというものだと思っておいてください。ネトゲでは考えにくいので本文では無視していますが、時定数の短い系は不安定であるという常識もあります(時定数だけで安定性が決まるわけではないですが)。全くの余談ですが自分は制御実験で時定数を短くしてゲインを10万倍とかにした系を作ってしまいました。結果モーターは小刻みに激しくブルブル振動。音がデカかったので結構怖かったです

*5:MMORPGの職業バランスを取る部署or人間というのが(あるとすればだが)どちらにあるのか判然としないのでこのように書く。そんなもの企画者の頭の中には微塵もないという線も濃厚だが

*6:もちろん単にユーザの言うことを聞かなさ過ぎる開発運営とかも考えられるが、ECOの場合はそういうミスは犯していない。むしろユーザにバランス調整を丸投げします!という姿勢を見せて叩かれたことがあるほどである。ってオイ、お前ら自分の要求を通したいのかそうでないのかどっちだよ。

*7:参照:http://d.hatena.ne.jp/tackman/20080907/p4

*8:そもそも政治を行う方法自体が一種の価値観を含んでいる。民主制が「望ましい」とかね。これは民主制なら上手く行くという意味と、民主制を採用する価値観を採るべきだ、という意味とが両方ある

*9:中にはネトゲ自体がやめられなくて何でもいいから自分に合うネトゲを、と次から次へと移住するユーザもいる。大体彼らはオープンβテストの間だけやって開発運営にいらない自信をつけさせた後新天地を求めてまた旅立つ。

*10:10分もあればカンスト出来た。ネトゲのプレイ時間としては無限小と言っていい

*11:実際に目についたのは「バランス調整がなってなさすぎる!だから開発運営はもっと社内でテストしてから実装しろ、ユーザに任せるなど論外だ」という類の意見だった。念のため書くがこのイベントに反対していた人間と同じ人間がバランス調整は大事だと言っているのである

*12:ECOの場合数百人のオーダー。1000のオーダーの対人は今のところ技術的に無理だと思うのだが、そういうネトゲがあるのかどうかは知らない。

*13:1000時間というのは控え目な数字である。真性の廃人ゲーと名高いFFXIではカンストに万単位の時間がかかるとかいう噂だ。詳細は知らないが、それってカンストさせることの出来た人っているのか?

*14:この辺の心理は私の想像の入っている余地が大きいが、くだんのバランス討論スレッドでは基本的カンストかその近辺での話題しか出ていないので、バランスはカンスト状態だけで語られるのは間違いない

*15:これが政治的な意味で、であるのは既に述べたとおり