とある飛空士への追憶れびゅー

とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫 い)

とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫 い)

こないだの週末に書くと予告して放置してしまったのを回収。

オビは「物語の新次元がここにある!!!」とかアオってますが、これは虚偽広告でしょう。本作品は「古典的な」「王道の」「ノスタルジックな」『傑作』です。
「古典的な」というのはテーマがズバリそのまんま身分違いの恋、だからです。このジャンルがいかに古くて良い意味で「枯れている」かは今更説明不要だと思います。本作品は身分違いの恋という枯れたテーマの押さえるべき要素を完璧に押さえた話の展開になっています。
「王道の」というのは「恋と空戦の物語」という謳い文句の通り、恋愛要素とバトル要素を適切な配分でブレンドしてあるからです。
「ノスタルジックな」というのは、昔の話、だけども古代や神話の時代の如く離れすぎてもいな時代が舞台で、なおかつ現代日本からは失われたものを感じ取れる世界だからです。作品中の技術水準は基本的にレシプロ単葉機が戦場の空を支配する第二次世界大戦レベルで、敵国役は戦前戦中の日本(の光の部分)がモデルとなっています(地理は完全にファンタジー世界ですが)。作品中の2国家はいずれも「帝政」を敷いていることになっていますが、帝政というもの自体もノルタルジーの対象でしょう。
『傑作』だというのは、上記の要素はそれぞれいかにもベタなものであるにも関わらず、完璧なまでに洗練されたストーリー・プロット・言葉で表現されているため全く飽きさせないということです。主人公とヒロインが互いに思いを寄せ合うようになる過程は過不足なく描かれており、ほぼ全ての読者は納得できるようになっています。また、主人公の人格は極めて温厚誠実に出来ており感情移入は容易でしょう。空戦の記述は空のことなど何も知らない読者が読んでも情景をはっきりと想像できるように、主人公の思考の軌跡と共に丁寧に書かれています。多勢の敵に挑む主人公とヒロインという図式はともすれば敵役を悪役に貶めがちですが、敵国は日本がモデルであることと筆者の中立的な筆致があいまって敵であっても悪ではないように感じられる仕掛けとなっています。
ライトノベルはシリーズものだと何巻もあって手を出しにくいことが多いですが、本作品は1冊で完全に始めから終わりまできれいにまとまっているためその点そこまで負担にならずに読めます。タイトルからして主人公に死亡フラグがビンビンに立っていますが、結末が気になる方は是非本書を読んでみてください。快い読後感が残る作品です。

「主人公の人格は極めて温厚誠実に出来ており感情移入は容易」って書いたけど、まあ素直に感情移入出来るならよし出来ないなら出来ないで仕方ないよねってことで。温厚誠実な主人公に感情移入なんて出来るほど自分はマトモな、あるいは良い人間じゃないっていうのはある意味まっとうな自己批判だと思うんだ。うん。え、なんで主人公はヒロインを口説きに行かないんだって?そいういう思考の人には向かない作品だと思うよ。